医学博士・医学ジャーナリスト
オフィシャルサイト
植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

10月2日 「がん」について 46
腫瘍マーカーのこと

 腫瘍マーカーについて知りたい、という声を度々耳にする。
 この場合「腫瘍」というのはほとんど「がん」のことであり、「マーカー」は、「マーク」の派生語、つまり「印」であり「証拠」でもある。何となく、がんを発見する手段として腫瘍マーカーを考えたときに、その語彙から「勝れモノ」の印象を人々に与えるだろうと想像できる。
 だからこそ、人々の関心高く、色んな場面で質問を受けるのだと思う。
 しかし、残念ながらそれほど医学は進歩していない。すなわち、血液中のある物質を測定しただけで、それが何らかの腫瘍の存在を示すものとして科学的に認知させるというレベルに到達するには、まだまだ無理があるのだ。
 腫瘍マーカーに対しての「理想」は、以下が考えられる。まず、

  1. がんの早期発見に役立てる。
  2. がんの進行度を推し量る。
  3. がんの診断に使う。
  4. がんの治療効果の判定として活用する。
  5. 転移や再発の目安にする。

 この中で、多くの人が本当に期待したいのは、1.の「がんの早期発見に役立てる」だろうと思う。
 が、残念ながらこれらのうち、最も不可能なのがこの1.でもある。つまり、がんを早期に発見するための手段として腫瘍マーカーを使うことについては、まず不可能だという現実を意味している。
 むしろ2~5の項目に関しては、1.よりは期待ができるし、実際腫瘍マーカーがこういった方向で活用されているのは事実である。が、それでもまだまだ奥深く、理解しがたいものが腫瘍マーカーの性質にはある。
 なぜなら、例えば腫瘍マーカーが極端に異常値を示すために、それがイコール3.の「がんの診断」として認識され、「がんだ」と決め付けられたとする、ではどの臓器のがんだろうとあらゆる検査を繰り返し行ったものの、結果的に臓器を特定できず、そうこうしているうちに腫瘍マーカーの値が基準値に戻ってしまったという話を嫌というほど耳にするからである。
 この「あらゆる検査」は、本人にとってはかなりの苦痛を伴うにちがいないし、たとえどこかの時点で「がんではない」といわれても、「腫瘍マーカー」の名称から、それが一旦異常値を示したとあれば絶えずいいようのない不安を感じる事態は避けられないと思う。
 腫瘍マーカーとは、現在のところまさにそういう「いらぬ不安」をもたらすものに過ぎないのである。
 私は、現在の腫瘍マーカーの役割は、2.と4.と5.に限られるだろうと考えている。なぜならこれらは、一旦「がん」とはっきり診断された後に活用されることを意味しており、「決定を下す」ものではないからである。
 あくまで「参考」のため、という枠の中でとらえるべき「検査項目」であることをしばしば忘れがちになることから、この「腫瘍マーカー」とは、明らかに名前負けしていると痛感している。
 主な腫瘍マーカーCEA主に大腸がん、早期がんでの陽性率は低い。肺腺がん、乳がんでも上昇AFP主に肝臓がん、2cm以下の早期がんで陽性率50%。CA19-9主にすい臓がん、小さながんでも陽性率は70%。
 だが、がん以外の疾患でも上昇CA125主に卵巣がん、子宮内膜症でも上昇

ページ上部へ