医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

10月9日 「がん」について 47
癌学会とがん予防1

 9月の26日から29日の4日間にわたって、「第60回癌学会」が横浜で開催された。
 この学会は、国民の3人にひとりが癌で死亡する現実にあって、文字通り癌に関するあらゆるテーマを研究していこうとする会である。
 その歴史は古く、癌学会の前身である「癌研究会」が設立したのは明治41年のこと、その後増え続ける癌への対策として、さらに研究会を発展させていく必要性が高まり、昭和16年大阪帝国大学(当時)において第33回癌学会学術集談会と第1回癌学会学術講演会が同時に開催され、以後「癌学会」の名で今日まで継続してきた医学会である。
 前身の研究会がスタートした明治にしろ、癌学会として正式に産声をあげた昭和16年にしろ、当時国民を悩ませていた疾患は結核に代表される感染症であったから、すでにこの時期から癌に取り組む体制ができていたというのは、いかにも先見の目があって驚きである。
 癌学会が扱う領域は、有機化学、生化学、分子生物学、免疫学などの基礎科目から始まり、消化器癌、肝・胆・膵臓癌、呼吸器癌、婦人科癌、化学療法、免疫療法、温熱療法、放射線療法など臨床分野までにいたる幅広いものである。
 平成9年時点での会員数は約17500人と膨大であり、今回も総計2000以上もの演題が集まり、加えてシンポジウムやセミナーも開催された。
 実際は、この学会で発表される多くが基礎分野の内容であり、がんの遺伝子や転移に関するものや発癌や化学物質についての研究が目立つ。
 最近はさらにさらに専門が細分化され、内容が相当専門的になってきている。専門的というのは、少し自分が携わっていないことについては皆目わからないといった意味であり、この点実は不安である。
 なぜなら自分の専門分野に関することばかりに心が向くと、それ以外についてはさっぱり興味がわかない傾向を生みがちで、結果的に真に国民のためになる癌研究が進むだろうかといった懸念にかられるためである。
 しかし、ともあれ毎年学会は開催され、その中から今日癌治療や原因解明に役立った研究が数多く出てきたことは事実である。「癌は遺伝子の病気」というのは今や常識であるが、「常識」が、コツコツと積み上げてきた研究の成果として意識の中に定着し、さらなる研究に発展していこうとしているわけで、知らず知らず我々は、近代科学の恩恵にあずかりながら生活していることを実感する。
 細分化された領域をみると、日本がいかにドイツに代表される西欧の医学に追随してきたか、がよくわかる。領域そのものが臓器別に分類されているのがその最たる特徴で、これからはそのままそっくり病院の診療科目と重なる。
 一方で、そろそろこのような分類自体を見直す時期にきているのではないか、学会に参加した後そんな風にも感じたのであった。

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