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がんについて 36

運悪く、舌の異常が単なる「あれ」とか「炎症」とかではなくがんだったら、やはり他の臓器同様に治療をしなければならない。舌にはまず放射線療法の適応を考える。なぜなら、舌は生きていくうえでの「喜び」を与える機能を持っているからである。まずは、味覚。美味しいものを食べる行為は人生の中での大きな楽しみのひとつに違いない。「舌鼓を打つ」「舌が肥えている」などの造語も多い。また、噛むことも脳に刺激を与え、咀嚼した食べ物を飲みこむ一連の動作は、その機能を失ったときに始めて実感する生きる「手応え」のようなものである。さらに舌には、音をつくるという動きもあり、舌は私達のQOL(生活の質)を考えると、簡単に切ってはならない器官といえる。がんの大きさがニ〜四センチの早期なら、放射線療法だけで治療することができるが、これは、線源を直接がんに突き刺す独特の方法が行われる。治療後も舌の機能を損なうことはないので、やはりこの段階で発見したい。このほか、レーザーでがんを焼き殺す方法や凍結療法といって舌を凍らせることによってがんを殺す方法もあるが、いずれも早期がんに限られている。大きながんなら、手術で切除しなくてはならない。切除の方法は、がんの深さや広がりによって決まり、ごく部分的な切除だったり、半分、あるいは三分の二、がんによっては全部切除する必要がある。広がりが大きければ、頬やあご、また首のリンパ節に転移していれば、その郭清も行う必要が出てくる。手術後、機能障害に対する対策として舌の再建手術が試みられる。これは、舌の切除した部分に、前腕や太もも、腹部の皮下組織を微小血管ごと移植して舌の形を整える方法で、元どおりに舌を動かすことはできないが、残存機能を生かす方向で進められていく。乳がんの切除後もそうだが、この種の再建術の進歩はもっと注目されてもいい。機能も大事だが、本人にとっては「見た目」も気になるところであり、少しでも以前と同様の形を得ることによって、精神的な負担はかなり減るだろう。放射線にしろ手術療法にしろ、治療後のリハビリテーションは重要で、飲みこんだり咀嚼したりする練習、こぼさない・むせない練習をしていく必要がある。どうしても食べられるものが限られるために、栄養も偏りがちになることから、周囲のサポートと細やかな心遣いが欠かせず、本人ともども根気良く取り組んでいかねばならない。舌がんになった人は、かつて自分がついた嘘のために、このような舌を切る罰を受けたのか、と自分を責める人もあるという。嘘をつかない人などいない。タバコと酒、機械的な刺激によるものと素直に信じ、再発を防ぐよう努めることである。