医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラムコラム-“病気”や“医療過誤”についての連載。

4月4日 減らない医療過誤08 負担の多い看護師業務

 患者の傷害には至らなかったものの、あやうく事故になる寸前で気づいた事例を「ヒヤリ・ハット事例」として収集し検証することで、今後の事故発生防止につなげようとの動きがある。
 先週は、その中で看護師による最も多い事例は「診療の補助業務」であると紹介した。
 さらにその中で多かった具体的な行為は「注射・点滴・IVH(持続栄養管理)」(51%)で、ついで「与薬」(21%)、「チューブのはずれ、閉塞」(10%)であった。
 いうまでもなく注射とは、外来でも高頻度に日常茶飯事繰り広げられる医療行為のひとつである。しかも、注射は内服と違って即効性があるために、その作用は良くも悪くもすぐに表れるからごまかしがきかない。
 与薬を含め、注射・点滴という業務が患者へのミスにつながりやすい医療行為だと理解していながら、しかもこれまでミス防止のためのチェック機構がある程度存在しているはずでありながら、いまだに「危険地帯」であるのを知ると、行き場のない不安や脱力感を呼び起こす。
 深刻な看護師不足は、ひところに比べ随分緩和されたようだと先週紹介したばかりだが、日本医療労働組合連合会が発表した「2001年度夜勤実態調査」の結果を見て驚いた。
 3交替病棟における平均夜勤日数は、前年度から0.06日増えて7.68日となり15年ぶりに増加したという。
 夜勤が月8日を超える人の割合も1.9ポイントの増加で22.1%、依然として4人にひとりの看護師が確保法・基本方針に反する4回を超える夜勤を行っている状況であることがわかった。
 日本看護協会による調査では、本来は別の職種が行うべき仕事を夜間は看護師がやらざるを得ない実態も明らかになった。
 本来の看護師の仕事ではないものとしては「薬剤業務」「患者の家族への対応」「診療に関する問い合わせの電話対応」「電話受付」「患者受付」などである。
 特に人手のない夜間は、24時間のローテーションを組んで働く看護師らにごっそり負担がかかるようになっているのだ。
 これでは医療事故やヒヤリ・ハットの事例が後を絶たないのも理解ができるというものだ。患者たちの声を拾い上げていくと、病院内での医師や看護師らとのコミュニケーション不足が常に不満を呼び起こしているのがわかる。何かを尋ねたくても、医師相手だと怒られそうで恐ろしく、看護師相手だとあまりに忙しそうで気がひける、という。
 いったい医師や看護師らとの会話が十分でなくて、何のために病院へ行くのだろうか。
 患者の取り違えといった考えられない医療過誤もあるが、一般の企業であれば、最も大切な顧客の顔と名前が一致しない状況など考えられない。
 ましてや、いくらこのような調査が公表されようとも、看護師を取り巻く人的環境の現状が一向に変わっていかないのも信じられないことである。

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