医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

9月18日 「がん」について 44
女性に多い甲状腺がん

 ほとんどのがんは、女性より男性に多く、高齢者に比べ若年者がんの進行が早いという傾向を持つが、甲状腺がんだけは違う性格を持っている。
 甲状腺がんは、女性が男性の三~四倍もの発生率であり、高齢者がんのほうが若年者のそれよりも進行が早いといわれる。
 甲状腺の働きは何かと聞かれても、あまりピンとこない人が多いのではないだろうか。甲状腺は、全身の新陳代謝の調節や成長の促進などを司る働きを持つため、甲状腺に何らかの異常が生じた場合は、発育不全や全身の倦怠感などを覚えるようになる。カルシウムバランスを維持するホルモンも分泌していることから、場合によっては骨がもろく折れやすくなることもある。
 よく知られているバセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気であるが、これはがんと直接の関係はない。甲状腺はのどぼとけのやや下に位置する袋状の臓器で、がんになってもホルモン異常をきたさないために最初は自覚症状がなく、早期の発見が困難であり、かぜなど他のことで病院を受診したときに偶然分かる例も多い。
 自分で「しこり」を触れることから自己検診の可能ながんでもあるが、しこりはバセドウ病や橋本病でも認められるため勝手な判断は禁物である。
 専門医であれば、触れたときにしこりの凹凸や硬さの感じでがんであるかどうかが八〇%の確率でわかるというから、この例をとっても熟練した医師の触診は、下手な検査を行うよりよほど確実である。
 日本では、甲状腺がんを診断される人は非常に少ないが、では甲状腺がんの発生そのものが少ないかといえばそうではなく、なんと日本人の十人にひとりがこのがんを発症している。
 ところがほとんどの人がそれに気づかず、がん自体自然消滅してしまうというから不思議だ。結果として、現在の診断方法で「がん」といわれるのは一千人にひとりの割合ということになる。
 さらに、その中でも症状が具体的に現れるケースは少なく、結局甲状腺がんは、非常にめずらしいがんとして位置づけられることになる。
 日本では少ない甲状腺がんも、アルプス山岳地帯には多く発症していたが、これは食生活習慣のなかでヨードを含むワカメなどを食べる機会が少なかったためといわれている。ワカメはいわゆる「体にいいもの」という認識が強いが、逆に過剰なとりすぎは甲状腺機能を亢進させてしまう。バセドウ病の私の知人は、診断されたときから一切の海藻類を止めた。
 その努力あってか、病気の進行は止まってしまい、今では何の治療も必要ないまでに回復した。食のバランスとは実に難しいものだと思う。
 甲状腺のいろいろな病気 機能亢進(バセドウ病) ホルモンの分泌過多、眼球突出、指のふるえ、動悸、やせ、食欲増進、甲状腺のはれなど 機能低下(橋本病)ホルモンの分泌低下 、だるさ、むくみ、記憶力の低下、意欲の低下、甲状腺のはれなど 甲状腺腫瘍 良性と悪性があり、さらに悪性がんは、組織検査によって分類される。甲状腺のはれ、声かれなど

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