医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
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Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

9月25日 「がん」について 45
若い人に多い骨のがん

 臓器とは違って、骨や軟骨、腱、筋肉、脂肪などは「結合組織」と呼ばれるが、これらの部位にできた悪性の腫瘍は「肉腫」という。
 肉腫もがんの仲間であるが、がんがリンパ節に転移しやすいのに比べ、肉腫は血行性転移、特に肺に転移しやすいという特徴を持つ。また、結合組織のなかでも、手足の骨細胞に発生し骨を作る組織を増殖させるがんは「骨肉腫」と呼ぶ。
 骨に腫瘍ができる人は年間2000人強であるが、この中で悪性の骨肉腫は約400人前後といわれる。骨肉腫の特徴は、思春期や若い人に多い点である。発育の盛んな10歳代に最も多く、ついで20歳代と続く。
 男女比では3:2で、男性のほうに多く発症する。はじめてこの病名を耳にしたのはテレビドラマ「サインはV」だった。范文雀演じるバレーボール選手が、ボールを打とうとしたときに肩に激痛がはしる場面から、どうやら悪い病気らしいことがわかる。主役に敵対する役ながら、その毅然としたキャラクターに人気が集まった記憶がある。
 骨肉腫は、ドラマと同様、初期にはスポーツをしたときや重いものを持ったときに膝や肩が痛む。進行すると、つまずいたり転んだりしたときに骨折しやすくなる。しだいに何もしなくても痛みが持続し、関節が腫れたり皮膚が赤くなったりする。
 若いがゆえに悪性の病気であるとは思いもよらずに、初期についついマッサージで痛みを和らげようと試みたりもするが、これは禁物であり、患部に刺激を与えることは悪化の原因となってしまう。
 痛みの他にこれといった症状がないため、若い人は単なる関節痛だと思い我慢をしがちだが、しつこい痛みが続くときにはやはり一度整形外科を受診したい。
 肉腫は、全身のあらゆる骨に発生するが、多い順に「大腿骨」(54%)、「脛骨」(19%)「上腕骨」(8%)、「骨盤」(6%)、以下ひ骨、頭蓋骨と続く。おおまか70%が膝の周辺にできる。
 いずれにしろ、発育の盛んな時期に多発することから、骨肉腫と骨の発育には密接な関係があることが推測されるが、詳しいことはわかっていない。
 以前は、骨肉腫というと「不治の病」「助からない」といった暗いイメージがつきまとったが、良性か悪性かの識別診断技術や化学療法などの治療法も進歩したことから、今では早期なら切断の必要がないし、60%以上が完治するようにもなった。
 治療には、まず化学療法でがん細胞を小さくし、手術で患部を切除するというのがスタンダードである。
 この他、いったん切除した骨を60℃のお湯に浸してがん細胞だけを殺し、再び体内に戻すという温存手術もある。
 がん細胞は高熱に弱いことを応用したものであるが、加熱によって骨のたんぱく質が破壊され、骨の強度が損なわれないような技術も考案され普及している。
 切断にいたらないまでも、治療により見た目が変わってしまうこともあり、特に若年者に対する心のケアが非常に重要視される悪性腫瘍である。

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