医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラムコラム-“病気”や“医療過誤”についての連載。

5月14日 減らない医療過誤13 具体化する病院の株式会社化

 多発する医療事故に対応するために、四月十七日校正労働省が設置した「医療安全対策検討会議」が「医療安全推進総合対策」を公表した。
 この報告書の骨子は、次のようなことである。
 まず「医療機関の安全確保の為国は積極的な情報提供を実施していく」こと。
 次に「すべての病院や有床診療所に安全管理指針の取りまとめや院内事故報告制度および職員の安全研修を義務づける」、「特定機能病院などは患者相談窓口を設置する」、「医薬品の名前や外観について、類似性を客観的に評価する手法を開発する」、「都道府県に医療安全センターを設置する」、そして「ヒヤリ・ハット事例集を全国に展開し、分析・提供体制を強化する」である。
 すでに医療過誤を経験した方々にしてみれば、すべて「何を今さら」というものばかりだろう。
 具体的に義務づけた項目としては表にあげた四項目であるが、厚労省に言われるまでもなく、とっくに独自で取り組んでいる病院もいくつか存在する。
 いずれにしても、対策として打ち出された項目は健全な一般企業にしてみれば、明文化されているかどうかはさておき、どれも常識の範囲内ではなかろうか。
 日々沢山の医療ミスが報道されている現状をみれば、明らかに対応は遅いといえる。
 人手不足という根源的な問題が解決されないのなら、「病院経営への株式が視野の参入容認」の観点から原状回復を期待することもできると思う。医療法の第七条五項、「都道府県は営利目的の病院などに開設許可を与えないことができる」旨の規定により、これまでは株式会社が病院を経営することは事実上タブーとされてきた。
 そこには、古くから「医は仁術」といわれてきた、この分野の高潔さを尊ぶ意識が見え隠れしている。
 が、株式会社が営利目的であるのは確かだが、医療もサービスと考えるならば、株式会社だからこそ営利確保のためサービスの質の向上に邁進すべき時代である。
 たとえば、米国のある州では刑務所が民間運営になっているが、最も社会から信頼され他との差別化を図るためには、主に脱走囚を出さないことと再犯率を低下させることの二点が重要であり、まさに競争の中で努力を続けているという。
 病院とて同じこと。国民から信頼され、多くの患者が集まるためには、医療過誤を減らすことや対患者対応のスキルに磨きをかけることに努めるしかないだろう。
 幸い、政府の総合規制改革会議では、病院経営への株式会社参入容認を2002年度の重点方針にするという報道もある。
 改革案が出たと思ってもすぐにどこからか圧力がかかり、いつの間にか立ち消えとなることが多いものだが、あらゆる観点から変革を求め、医療過誤を減らすという課題達成に向けて動くべき時期を迎えているのだと思う。

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