医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

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コラム「一刀両断」コラム「一刀両断」の連載。

7月8日~7月24日掲載
とにかくうるさいアナウンス

 仕事柄、少なくとも週に2回は新幹線を利用する。とにかく、駅や車内での放送がうるさいの何のって、ただでさえ湿度の高いこの時期、不快指数やイライラ度は増すばかりなのだ。特に「駆け込み乗車はおやめください」のアナウンスはまるで壊れたステレオのように何度も何度も流され、駅構内の掲示板や車内の電光板を見れば繰り返し目につき、もうみんなで大騒ぎの様相である。いったい何事?といぶかしく思うほどこの言葉があふれんばかりに耳に入ってくる。発車寸前になると、恐らく音響を最大限に設定したマイクを伝わって、「駆け込み乗車は危険ですからおやめください」と、ほとんど絶叫に近い声がホーム中を駆け巡っている。

 もともと日本は、地下鉄の中、電車の中、バスの中、いずこも余計なアナウンスのうるさいところだが、新幹線の駆け込み乗車に対する怒号にも似た放送は一種異様である。駆け込み乗車をせず、なるべく余裕を持って乗車に臨みたいのは誰しも同じ、しかし忙しいビジネスマンやビジネスウーマンらにとってはそうはいかないこともある。忙しい人でなくても、見送る人との別れを惜しむあまり、あるいはみやげ物の買い物に夢中になるあまりぎりぎりの乗車になってしまうことはある。要はそれぞれ色々と都合があるのだ。JR側もそんなことは百も承知、しかし事故を防ぐため、業務上の責任のもとに放送しているのだろう。しかし、私たちは子供ではない。危険なこと、いけないこととわかっているのだから、何も大声で教えてもらわなくても結構だ。それで事故が起こったらどうするって?そんなものはどのみち本人の責任、放っておけばいいことである。不謹慎な言い方かもしれないが、アナウンスを繰り返すよりも駆け込み乗車で事故が起これば、その報道にこそ人々の緊張はいやでも高まる。

 長いこと営団地下鉄に勤務しているある知人によれば、しかるべき放送をしないと乗客からクレームがあるとのこと、次第に車内放送は増えていくばかりなのだという。「自分の責任」を問わないのがこの国の大きな特徴である。アナウンスのみならず、今や新幹線ホームの縁にはグレーの鉄柵ができている。線路への転落防止だろうが、前後不覚の酔っ払いか自殺志願者でもない限りホームから線路に飛び降りる人間などいやしない。転んで鉄柵に頭をしこたま打てば、そのほうがよほど危険である。個人個人が気をつければいいことをわざわざお金をかけて柵を作る、こういった発想が日本を閉塞的でつまらない国にしていることに何故気づかないのだろう?ところで、最近は「のぞみ号」が増え、ダイヤが益々過密になってきたようである。新幹線の多くは、のぼり列車が東京駅に到着し乗客を降ろした後に、急ぎ清掃を行い、早々に下り列車に様変わりする。その間約20分~30分。乗客は早めにホームに到着すると、清掃が終わるのを待っていなければならない。その時間が最近妙に長い。つまり発車時間間際にならなければ清掃が終わらないということだ。下手すれば発車時間5分、ひどいときには4分前にならないと扉は開かない。清掃の方々はフルスピードで椅子を回転させ、布カバーを取替え(何で布?紙で十分なのに)ゴミをまとめている。気の毒なくらいの忙しさだ。したがって我々乗客は早すぎても乗れない、ぎりぎりではアナウンスで怒られる、といった具合に誠に忙しい状況に身を置かねばならないのである。駆け込み乗車をする人あれば、30分以上も前に着きホームで待つ人もある。私のようにしょっちゅう新幹線を利用する者もいれば、はじめての新幹線に嬌声をあげる人もある。仕事のことを真剣に考えている人を見受けるかたわら、土産袋を抱え名残惜しげに佇む人がいたりする。幾多の旅人が行き来する瞬間である。ちょっとは静かに見守ってはくれませんか、JRさん

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