医学博士・医学ジャーナリスト
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植田 美津恵
日本の医療・福祉・健康を考える

Production著作/論文

コラム「がんについて」コラム「がんについて」の連載。

1月8日 「がん」について 59
「効く」ということ

 単純に解釈すれば、「効く」とは「効果がある」「効き目がある」ということになる。
 「薬が効いた」「宣伝が効いた」などと使う。がんや病気の治療においても「効く」という言葉をしばしば耳にするが、それはイコール病態が改善されたことを意味し、患者にとってはありがたい状況だ。
 しかし、何かの効果というものを真に確認しようとするのは案外難しいことではないだろうか。
 たとえば、人々の身体機能に何がしかの異常が起こったとき(つまり病気になったとき)、たいていの人は病院に行って診断を求め、治療を受けようとする。
 検査の結果、病名が確定する場合もあればしない場合もある。
 何が原因となって「体の具合が悪い」のか、わからないことだって結構ある。が、もしがんと診断されれば、手術を受けるなり薬を飲むなり他のさまざまな治療法を受けたりするだろう。それによってがん細胞が小さくなれば、医学的にはその治療法が「有効である」と判断するが、患者の苦痛はあまり変わらないこともある。
 この場合の苦痛とは、「がんの痛み」の項でも触れたように精神的な不安や恐れ、不信などのほか、治療による合併症や副作用などによって引き起こされるすべての愁訴を指す。
 専門家の間では、がん治療については「がん細胞を叩く」という表現がよく使われるが、結果として確かにがん細胞は小さくなっても、その割に患者の苦痛が軽減されないときに、治療が「効いた」といえるものだろうか。
 巷にはたくさんの健康食品があふれている。その種の広告も日々目にする。「がんが治った」「がんに効いた」といった体験談も多くある。
 それらをよく読めば、健康食品だけで「治る」というケースはほとんどない。
 それぞれに、病院でスタンダードな治療を受けつつ健康食品を摂っている。結果的に、手術後の回復が早かった、がんの治療をしても以前より元気になった、余命まで宣告されたが回復した、などの状態が得られ、それらが健康食品のおかげ、と解釈しているようである。
 確かに免疫力を高めたり、がんへの抵抗力を示す健康食品も確認されているので、まったく効いていないとはいえないにしろ、従来の西洋医学に基づいた適切な治療や「元気になってやる」といった意気込みなどがあって始めて回復傾向を示したといえる。毎日健康食品を摂ろうという意欲、生への欲求に基づく強い精神力あっての健康食品の効果、との見方もできる。
 少し意地悪く考えれば、最初の診断が間違っていた(ゆえに最悪の告知を受けた)可能性もないではない。
 と考えると、健康食品やその他の一般的な治療の純粋な効果、つまり「効き目」を把握するのは極めて難しい作業ではないだろうか。
 それでも私は、健康食品推奨派である。それは何よりがんを克服しようという人間の「気」を一番に評価したいからだ。
 「わらをも掴む思いで」「がむしゃらに」というときに、人は想像以上の力を示すに違いない、その可能性を信じているからでもある。

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